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クラシック奏者で生きていく難しさ

ハイドンの似顔絵イラスト(音楽家)

 

クラシック奏者で生きていく難しさ

 

クラシック奏者がその道1本で生涯食べていく事は大変だ。

特に公演の収入だけで生活している人はごく一握り。

 

※このお話に出てくるアーティストは筆者ではありません。筆者は何処にでもいる雑草のようなサラリーマンです。

 

クラシック奏者というのは珍しい職業だ。

作曲するわけではないので歌手や画家、陶芸家、書家等とは違う。

似てるのはオペラと歌舞伎と落語だ。同じ話を違う演者が行う。

 

でもクラシック奏者は落語家のようなアレンジはしない。

正確に奏でる。忠実に奏でる。

だったらCDで聴けばいいようなモノだけど、皆そうは思わない。

その人がその曲を生で演奏する事で、その人だから出せる感動を出す。

 

子供の頃から楽器漬けで音楽学校に入り、

優秀な成績を修め、コンクールで賞を取り、

時に海外へ留学し、有名なアーティストのバックで演奏したり、

どこかのオーケストラやどこかのプロダクションに所属し・・・

そうして地道に固定ファンを増やし、収入を増やしていく。

 

多くの人はそのレールにすら乗れず別のレールに切り替える。

 

大人気アーティスト

サントリーホール | 東京交響楽団 TOKYO SYMPHONY ORCHESTRA

 

大人数を呼べる人となると本当にごく少数だ。

ウィルハーモニーなどの大所帯ならともかく、個人で写真(サントリーホール)のような場所でコンサートが出来る人はとんでもなく凄い。

 

 

清塚信也さん(ピアノ)、高嶋ちさ子さん(ヴァイオリン)、のようにテレビにウケるキャラクターだったり企画力があれば自身の公演だけで入手困難なほど大人気になれる。

しかしそうではない人の方が圧倒的。

大抵は数十人、多くて100人くらいの規模で演奏できる箱(会場)で講演を行う。

 

 

葉加瀬太郎さん(ヴァイオリン)や東儀秀樹さん(雅楽)のように天才的な作曲センスで大ヒット出来るならともかく、クラシックは自身の作曲ではないから色んな人が同じ曲を演奏する。

 

そもそも、お金を払ってクラシックを聴きに行きたい人口は限られている。

興行である以上、難易度の高い曲、珍しい曲、人気のある曲を織り交ぜて観客を集めなければいけない。

演奏の腕一本だけでなく、アーティストとして集客できるセンスも必要だ。

 

去年か一昨年、高嶋ちさ子さんのコンサートへ行ったが彼女は「有名な曲しかやらない」という確固たるポリシーを述べていた。

演奏家、奏者としての権威より「クラシックに興味の有る程度の人」を喜ばせる事に特化したのだ。

彼女自身が入口になる事によりクラシック市場全体へ貢献する度合いは凄いだろうと思う。一部の人は、よりディープにクラシック界へハマっていくかもしれない。

どの業界でもポップにやって成功を収める人が居ないとその業界は没落していく。

 

でもみんな彼ら彼女らのように成功できるわけじゃない。

プロになるよりプロになってから成功する方が至難の業だ。

中世ヨーロッパのように裕福な貴族がパトロンに付いてくれれば生活に困る事はないが、主な収入源がパトロンからの援助のみなんて人は生涯食べていけない。

 

とあるアーティストさん

結婚式のイラスト「タキシード姿のお婿さん」 | かわいいフリー素材集 いらすとや

 

本題(ようやく)。

先日とあるシニア世代のアーティストさんと、その後援会の代表の方々とお食事をした。

 

有名な音楽学校を首席で卒業、音楽会では知らない人は居ないコンクールで優勝、海外のコンクールでも何度も優勝しヨーロッパ移住。

その国でリサイタルを行い新聞に載ったりしつつ日本で公演を行い、CDもたくさん出している。

現在はその学校の教授に就任、大変優秀なクラシック奏者さんで業界では著名。

テレビ出演などは無いが日本クラシック界を牽引してきた1人なのは間違いない。

例えば日本フィルハーモニー交響楽団を始めとする有名なクラシック楽団と何度も共演しているし、コンクールの審査員なども務めている。

 

特にクラシックの熱烈愛好家でもない筆者とは決して交わらない人である。

しかし色々と難しいようだ・・・と言うのはお財布事情だ。

 

ホームページ

ウェブサイトのイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや

 

 

 

その方と、もう10年以上のお付き合いになる。

 

筆者がその方のホームページを担当していて、無償(ボランティア)で公演情報を書き込んで運営している。

10数年前に全面リニューアルして2か月に一度くらいの割合で公演ニュースを追加して過去の物をアーカイブにしている。

 

元々上司がその方の大ファンで、後援会の1人がホームページを制作していたが子育てに忙しく誰かに代わって欲しいという事で筆者に「あなたホームページとか出来るの?」と相談が来た。

 

それほど優秀で凄い経歴のアーティストならお金をかけて凄いホームページを制作会社に依頼すれば良いのでは・・・と思ったが、おそらくそれほど裕福ではないのかもしれないと当時思った。

 

上司の頼みである事と、その方の人柄や後援会の方の熱意に負けて引き受けた。

演奏家としてヨーロッパに住んで日本公演の度に来日するような人でもこのような状態なのだ、クラシック奏者という職業は難しい。

 

後援会の方々と名刺交換した事が有るが、有名大学の教授だったり大企業の管理職だったり社長さんだったりと凄い人達だった。

クラシックファン=生活に余裕の有る人達というイメージはあながち間違いではないな、と思った。

 

だから後援会から寄付金でも募ってホームページ資金を捻出すれば?と思ったが、

そんな事をすればイメージを崩しかねない。

あくまでファンが好意で運営している形が重要なのかもしれない。

 

お話を受けた時点で既に60歳前後だったと思う。今は70歳前後だ。

そのお年まで公演だけで食べてきたのは本当に凄い事なのだけど、今は余裕の有る状態ではないようだった。

(生活していく分には年金と貯蓄、教授としての給料で申し分ないだろうけど)

 

お話の内容

相談室」のイラスト文字 | かわいいフリー素材集 いらすとや

 

相談の内容というのは集客、広告についてだった。

プロダクションも既に「ベテランアーティストは自分でプロモーションしてくれ」という状態らしく、コロナで経営危機に陥ったのはクラシック業界も同じである事が窺える。

 

コロナで激減したお客さんを取り戻したいのですが…という冒頭の後、

ホームページをリニューアルしてくれないかという相談事だった。

 

 

しかしキッパリと断った。

理由は2つ。

効果が薄い事、そして時間に余裕が無い事。

 

補足すると、まず今わざわざGoogleで検索してアーティストのホームページまで行く人は減少している。それは企業でもお店でも同じだ。

今でもホームページが重要なのはホテル業、観光業、高級料理店くらいである。

 

ホームページはコアなファンしか見に来ないしコアなファンはどうであれ情報を集めに来る。

だからSNSYoutubeに切り替えて発信した方が良いと伝えた。

(そして筆者自身がお金を貰っても断るくらい今は育児に仕事に趣味に忙しい)

 

結局SNS

SNSが表示されたスマートフォンのイラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや

 

結局、後援会の中でも事情を知る人がSNSを始める事にした。

本人のアカウントを開設してフォロワー数が伸びないとイメージ的に良くないので、

関係者が本人の許可を得て開設したというスタンスだ。

(反応が良ければ本人アカウントを開設すれば良い)

 

これで日時、場所、演目名を投稿する事により未開拓の層へアピールする事が出来る。

ファンがそれをリツイートなりしてくれれば余計に拡がる。

関係者しか撮り得ない舞台裏の写真があれば余計に楽しめる。

 

更にご本人は全く持って謙虚で、これまでもホームページで凄い権威ではあるのにそうした功績や肩書をズラズラ記載する事を嫌がっていた。

だからそれをきちんと記載すれば筆者のような素人にだって凄い人なのは一発で分かる。

 

SNS発信は素人がやってもそれほど効果を得られない事が多いが、

本人に知名度があればある程度効果が見込める。どのアーティストも必死に投稿している。

 

それに、そもそも効果が無かったらそれはほとんど人目に触れていないのだからイメージが下がる事もない。

とにかくやれる事はなんだってやった方が良いのだ。

 

ちなみにYoutubeは権利がややこしそうなので言及しなかった。

クラシック音楽はオリジナルでない為、何処から何処までアップしていいのか分からないからだ。

 

さいごに

レオナルド・ダ・ビンチの似顔絵イラスト | かわいいフリー素材集 いらすとや

 

1つの芸事で食べて行くのは本当に大変だ。

特にコロナのような大嵐がやってくると収入がゼロになってしまう事も有る。

 

「食べていける」というのはサラリーマンで言えば60歳の定年を迎えるまでを指す。

10年、20年の話ではないのだ。

今は裕福ではないにしろ70代に達するまで第一線の芸術家として生きているのはそれだけで偉業だと思う。

 

筆者がサポートしているアーティストさんは実力、人望、運、その他いろいろ兼ね備えていたのでシニア世代まで第一線で活躍する事が出来ている。

普通は無理だろう。

奏者としてではなく育成者になる人が圧倒的に多い。

 

今でもコンサートホールに足を運ぶお客さんが居るのは凄い事だ。

60歳、70歳を超えて集客出来る演奏家は全体の1%以下だと思う。

 

そして(自分で言うのもナンだけど)筆者のように10年以上無償でやってくれるお人好しや人の好い後援会の方々と出会えたのも人徳や運の為せる業で、

どのような職業であれ人に支えられて生きていくのが人の道であると思う今日この頃だった。

 

 

おしまい。