ありがとうはこっちのセリフ
お店を出る時、大抵は店員さんが「ありがとうございました。」と言ってくれる。
こちらは代金を支払い、
お店は商品やサービスを提供する。
その関係に上も下も無い。
ただ、飲食店で働いていた当時の先輩か上司に
「いくつも有るお店の中で当店を選んで頂き『ありがとうございました。』なんだよ。」と教えてもらった事がある。
その当時は「なるほどなぁ」と納得したものだ。
だけど世の中には「ありがとうございました。」と言われた時、「いやいや、それはこっちのセリフだよ」と言いたくなるシーンに多数直面する。
シーン① 阿蘇をドライブ中の喫茶店
九州旅行で阿蘇山を訪れた時の事。
阿蘇山を観光して(カルデラは大感動だった)車でホテルへ戻る道中、
お腹が痛くなった。
トイレに行こうにもドライブコースのど真ん中、トイレどころか駐車スペースすらない。
我慢して走ること十数分、ぽつんと喫茶店が有った。
「助かった!」喜び勇んで飛び降りトイレを貸してもらう。
九死に一生を得、せっかくだからお茶していこうとコーヒーとソフトクリームを食べた(お腹を壊したのにまた冷たいものを食べた)。
コーヒーとソフトクリームの味は正直覚えていない。
覚えているのはお店からの絶景だった。
(どれだけ記憶を振り絞ってもお店の場所や名前を思い出せないのでそれに似た景色の写真を「じゃらん」から拝借した。)
阿蘇山からドライブしてちょうど一息つきたくなる場所。
阿蘇山の絶景が見られる景観。
天気が良く初夏の心地良い風が吹く中で、このお店のオーナーさんがここにお店を開こうと思ったキッカケなどに思いを馳せた。
ここにお店を開けば儲かると思ったのか、はたまたこの景色の良い所で働きたいと思ったのか、旅人を喜ばせるためなのか、その全部なのか。
理由は定かではないが最高のロケーションでコーヒーとソフトクリームを堪能し、
気分上々でお勘定した際にお店の方から「ありがとうございました。」と言われた。
その時思った。
ありがとうはこっちのセリフです。
シャイなのでそんな事言えないが、心の底から思った出来事だった。
シーン② 年始の立ち食いそば屋
今年の仕事始め。
新年の朝礼もオンライン形式でやる事になった。
(会長社長や従業員代表の年男年女が抱負を述べる式が有る。)
元々全国の支店や海外支社の為のオンラインだったがコロナ以降は全従業員がオンライン形式で視聴する流れになったのだった。
メインの司会進行は総務が行うが、
オンライン式典のシステム的なサポートを筆者の部署は執り行う。
(と言ってもトラブル時に対応するだけ)
昨年までは課長が担当してくれたが、
課長は部長に、
筆者は課長になった為に自分がやる事に。
リハーサルが7時40分開始と朝早いので6時30分には家を出る。
まだ真っ暗だった。
朝ごはんを作るのが面倒なので会社近くのコンビニで買おうと思っていた。
駅に到着するとふわっと香るかつお節の匂い。
「こんな時間からやってるのか、ありがてえ。」
まだ日も登り切ってない状態で湯気をもうもうと上げる蕎麦屋の店内は温かく、
冷えた体に染みて美味かった。
まだ目覚め切ってない体が熱を得て呼び起こされ、
お店を出る時に「ありがとうございました。行ってらっしゃい。」の掛け声と共に、
憂鬱だった早朝出勤が「ふー。やるか~。」という気持ちになった。
かき揚げ蕎麦の値段は460円。
その値段以上の旨さ、温かさ、元気をもらった。
その時思った。
ありがとうはこっちのセリフです。
シーン③ 山奥の自販機
たまに誰が何の目的でこんな所に置いたんだ?と聞きたくなるような場所に自販機が設置されている。
しかし、確かにたまにそれを利用するのだ。
特に山奥で水分は死活問題だ。
寒い中、暑い中、苦労してこんな所に飲み物を運んでくるのは大変だろう。
価格が倍近かったりするのは当然の事だ。
こんな山奥でキンキンに冷たかったり温かったりすると「ありがてぇ…」となる。
運んでくれた人の苦労を想像すると旨さも倍になる。
自販機は何も言ってくれないが、やはり思う。
ありがとうはこっちのセリフです。
世の中はありがとうで出来ている。
こっちのセリフですと言いたくなる機会がたくさん増え、
自分自身も「こっちのセリフですよ」と言われる人でありたい。
そう思う今日この頃だった。
おしまい。