地獄のような猛暑も終わりが見え始め秋の準備が始まった。
9月と言えば上半期の終わり。
筆者の勤める会社では上半期評価と下半期の目標を決め始める時期だ。
筆者は今年の4月から課長になった管理職1年生。
昨年に管理職研修を受け、一通りのセオリーを習い晴れて課長の任を受けた。
心配していた課長や部長になった途端に別の部署へ異動を命じられるといった事も無く、
おなじみのメンバーとおなじみの業務をしているので特に動じる事は無かった。
今まで同僚、後輩だった人達が部下になったので上下関係は変わってしまったが、
筆者の勤める部署は皆仲が良く対人関係で悩む事は無かった。
ただ、今はある1人の人物に少し悩みをもっている。
それは1人の派遣さん(以後Aさん)だ。
派遣さん
派遣さんは筆者とは違う会社に属している。
派遣には2種類ある。
①、別の会社の社員でプロジェクト期間中など人出が欲しい際にお借りする人。
②、派遣会社さんから派遣された雇用形態が派遣の人。
①は終了期間がハッキリと決まっているケースが圧倒的だ。
(コロナ禍では在宅だったが)毎日ウチの会社に来てもらうのでひとしきり仲良くなるも、お別れが来る事をお互い認識している。
②は特に期間を定めていない。Aさんはこの形態だ。
お任せする仕事は、言ってしまえばスキルをそれほど必要としない仕事が多い。
特殊なスキルを持ち高級な時給を取る派遣さんも当然存在するが、筆者の勤める会社ではそういった人は①から引っ張ってくる。
社員登用への道
別に正社員になる事が絶対的正義で幸せへの条件などと言うつもりは無い。
幸せの道はそれぞれだが給与や待遇は明らかに差が出る。
一般的な感覚では正社員の方が安定して良いと感じる人が多いと思う。
筆者の勤める会社では②の派遣さんが正社員になるケースはそれほど珍しくない。
何しろ筆者(課長)も部長も元派遣さんだ。
勤めている会社は、とある中規模企業のメーカーだ。そして筆者はシステムエンジニアだ。
システム会社ではない企業は募集に苦労するので常に優秀なエンジニアを求めている。
なので派遣さんや契約社員に「これは」という人が居たら声をかけ、そのまま正社員になってもらう事も珍しくない。
年収も悪くなく、定年まで勤める人が多い。
自分や部長が元派遣で有る事はAさんも知っていて、「私も正社員になりたいです」と言われた。
自分が勤めている会社を気に入ってくれたという事で嫌な気持ちはしなかった。
結局人を動かすのは熱意だったりするので、そういった希望は自分からどんどん口に出していくべきだと思っている。
ただ自分に人事権が無い以上、推す事は出来るが絶対的な約束は出来ないし、「頑張ってれば正社員になれるさ」みたいに人参をぶら下さげて裏切るような事はしたくない。
Aさんの希望を部長経由で上に話してみたところ「今のスキルのままでは無理だ」という回答だった。
なので徐々にAさんのスキルを伸ばせる仕事を振ろうという風に考え始めた。
最悪ウチが無理でもスキルが有れば今後の人生を切り拓く糧になるかもしれない。
Aさんの現状と今後
人当たりはいいがスキルが高くないAさん。
Aさんは35歳にほど近い。
一緒に働くようになってもうすぐ1年だ。
性格は朗らかで大人しく、雑務を振っても嫌な顔せず自分に出来る事が有ればとどんどん守備範囲を拡げようとしてくれる。
だがAさんはそれほどITに強いわけではない。
資格で言うと(もう無くなってしまったが)初級シスアドくらいだ。
更に経験値がかなり乏しい。色々な会社を経験しているみたいなのだが、SEとしての勤務経験は無くプログラム開発やネットワークの知識も心許ない。
これなら誰にも負けないという武器(スキル、知識、経験)を持っていない。
ハッキリ言ってしまえば専門学校や大学で情報処理をみっちり学んできた学生にも劣る。
このクラスの35歳を雇うならもっと若い人を、これからゆっくり育てる方が効率良いというのが会社の判断だ。
無理からぬものだと筆者も思う。
30歳を超えてエンジニアを目指す人はたまに居るが、現状派遣という雇用形態でスキルがそれほど高くないというのは将来設計が厳しいと思う。(大きなお世話だろうが)
他人の人生に深く関わるつもりはない。だが、食っていけるスキルを持っていない状態でずっと派遣で居るのは(筆者なら)不安だ。
何とかしてあげたいと思うが、困った事にスキルが低い以外にも問題が有る。
ステップを1段上げた事をやりたがらない。
Aさんは前述の通り雑務を嫌な顔せずこなす。
そこが美点なのだが少し踏み込んだ仕事、もう一段ステップアップした仕事をやってみたがらない。
Aさんが担当している仕事は新卒2年目でも出来るような仕事や雑用とも取れる事ばかりだ。
マニュアルが確立され、エラー対処も決まっている仕事はテキパキこなす。
しかし土台、礎が無い仕事を振ると最悪「すいませんそれはちょっと私には…」と難色を示し、場合によってはハッキリ断ってくる。
これに参ってしまっている。
別に辞退しても構わないと言えば構わない。(正社員を目指さないなら)
無責任に引き受けて結局出来ないという事も回避した大人な対応だとも思う。
しかし最悪失敗しても大丈夫な仕事しか振ってないしそれも説明している。
これが正社員の部下や後輩なら「今後の事も考えて勉強して対応できるようになろう」と言える。
しかし派遣であるAさんに今のスキルでは対応できないと言われてしまった後に「勉強して対応できるようになって」とは言えない。
Aという仕事をお願いしますという契約できているのでそれ以外の仕事を請けるかは任意だ、強制になったらパワハラになってしまう。
納期が短い仕事ではないのに何故チャレンジしてみようと思わないのか不思議だ。
自分の感覚は時代錯誤なのか
モヤモヤしているというのは筆者の感覚が時代錯誤なのかもしれない。
若者と中年の境界線くらいに居るAさん。
今やっている業務を粛々とこなすだけでは契約の延長は見込めるが正社員にはなれない。
もう35歳が見えてきている年齢でAさんには焦りが見えないのも不思議だ。
いや別に本当に焦らなくても良い。
ただ、我々は技術職なのでエクセルが出来る、IT用語が分かるというだけでは仕事にならない。
もちろんそのスキルも必要だけどもっと高度なスキルを身に付けないと手に職が就いたとは言えない。
「俺が若い頃は~」なんて言葉を使うと老害と言われるだろうが、結局自分の人生は自分で切り拓いていくしかない。
アピールが上手い下手の前にそもそもアピールしない人、挙手しない人にはスポットライトが当たらない。
もし自分がAさんと同じ立場なら今後どういったジャンルの勉強をしていくべきかをその会社の人に聞き毎日勉強して幅を広げる。
Aさんが拡げている守備範囲は言わば2次元であり、ビルで言うなら同じ階の仕事だ。
そうではなく他の階の仕事にもチャレンジし、管理職が推せる実績を作る。
あれしか出来ない人ではなく、これも出来る人になった方が人材としての可用性が上がるのだ。
やりたくないならやらなくても良いがそれで待遇が変わる事は無い。
自分の存在価値をもっとアピールする。
少なくとも正社員を勝ち取るまで必死さをアピールしたってバチは当たらない。
少しくらいわざとらしくても、頑張っているなぁという印象を周りに持たせてくれればよい結果を生みやすい。(Aさんは始業2分前にようやく着席する。)
別に定時キッカリに帰る事は悪い事じゃない。筆者もよく定時に帰る。
だがせめて定時を迎えてから帰る準備をして欲しい。
大事なイベントやデートが有るならその日くらいは別に良い、結局頻度の問題だ。
早く帰りたいならフレックスで上がってもらっても良いのだ。
早く来た分その分給料を寄こせというので有ればもちろんきちんと払う。
世間は知らないが筆者の勤める会社はかなりホワイトな部類だ。
だがこちらがこれらを指示したのでは意味がない。
命令や指示ではなく自発的な行動を、と思うのだがその価値観が古いのか。
Aさんからは自分の存在価値を高めてアピールし、自分を雇った方が得ですよとこちらに思わせる姿勢が見えない。
まだ未修得とはいえ、絶対に到達不可能だと思っている業務を振るような事はこちらもしない。
これまでの勤務態度や成果を見て、勉強すれば越えられる壁だと思って「やってみる?」と聞いてみるのだが即答で「今の私には出来ません」と言われてしまう。
我々の仕事はITなので日進月歩。
「今」出来る仕事は数年後に不要になる事も多い。
だからエンジニアは最新テクノロジーに精通する努力を継続しないといけないし、今出来ない事も将来的には出来るようにならないといけない事が多い。
正社員になりたいと口にしつつも、より高度な仕事にチャレンジしない。勉強もしてこない(ように見える)。
少なくともウチの会社では「誰でも出来るような仕事を黙々とこなす」という事では正社員にはなれない。
モヤモヤする。
それでは無理だ、力になれないと思う事が多々ある。
力になりたいと思えない。
今後もスキルアップして仕事の幅を拡げてくれれば「今度はあれを任せてみよう」とか思えるしAさんが居てくれて良かったと思える。
今のままでは無理だ。
と、思うのだがそれを伝えると、まるでそういう努力をすれば必ず正社員になれるよと約束してしまうようでそれも言えない。
必ず報われるなら誰だって努力する。
報われるか分からないけどとりあえず頑張ってみる人間は敬意を受ける。
Aさんは階段を登ろうとしないから当然待遇も変わらない。変えようがない。
他にも気になっている点がいくつかある。
1,新しい業務を指示した数日後、全く指示してない新しい管理表を作成してきた。「管理表テンプレートを作りました。マクロも入れてみました!」と。先日指示した業務は?と聞くとこれから着手すると言う。
2,自分だけで解決出来なかった時に周りの人に聞かず解決不可として扱ってしまう。「誰かに相談してくれ」と言うと「分かりました」と返事するが何度も繰り返す。
3,課長(筆者)が指示した業務を部長へ報告しやっていいか判断を仰ぐと言う。
3番に関しては流石に意味不明だった。
筆者を管理職として認めてないとかそう言った事なのであれば納得だがそもそもAさんはしっかりとした組織で働く事に慣れていない。(もう9ヶ月だけど)
課長と部長の役割を理解しておらず一般的なレポートラインを飛び越えてしまうのでおったまげる事が時々ある。
当然聞かれた部長も「え、課長にやってみてって言われたんでしょ?やってみたら?」と言うしかない。
気持ちを整理
ここまで書いて気持ちが整理出来た。
(とんでもない文字数になってしまった。誰が読むんだこの記事。)
Aさんが正社員になれる可能性はすこぶる低い。
まず筆者自身が既にAさんに対し苦手意識を持っている事に気が付いた。
古い考えなのかもしれないが、
恋愛でも面接でも、アピールは大事だ。
見せかけでも良いので現状に満足せず飛躍する姿勢を見せてくれないと推す事は難しい。
Aさんを見ていて正社員を希望しているのに叶わない人や出世を希望しているのに叶わない人の特徴が良く出ているなと思った。
それは判断基準がズレている事だ。
自分がやりたい事 > 指示される事
自分の判断 > 周りに言われる事
になっている人は周りに違和感を与える。
こう言った人達は組織には向いていない。
大成出来ないのではなく、向き不向きの問題だ。
起業するかフリーランス契約で働く方が良いだろう。
指示された事をやらず指示してない事で成果を挙げても評価は上がらない。
そもそも大したスキルを持っていないのだからこちらが驚くような事はしてこない。
指示していない事をして「出来ました!」と言われても困るのだ。どう評価すべきなのか。
今のままでは正社員にはなれない。
ハッキリとそれを伝えた方が良いのか、伝えたところでそれを実行しても100%なれるとは限らない。
黙して静観して成長を持った方がいいのか、見放して適正な距離で淡々とスキルが伸びない仕事を振り続ける事が良いのか。
相手が20代なら長い目で見れるのだけど…
まだまだ課長1年生として悩みは尽きない。
おしまい。