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※ネタバレ有り「コリーニ事件」

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最近見て良かった映画について感想を書く。


重大なネタバレが書かれているので見終わった人だけ読んでくださいませ。

「コリーニ事件」と「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」だ。


最初に言ってしまうと2作品ともめちゃくちゃ辛気臭い作品だ。
だがどちらもとても面白かった。


とりあえず今日はコリーニ事件について。

 


◆コリーニ事件

舞台はドイツ。大物実業家の老人がホテルで銃殺される。
犯人は60代のイタリア人。30年以上平凡にドイツ国内で暮らしてきた彼は逃げようともせずホテルロビーで犯行の完了を告げ、逮捕後は一貫して黙秘を続ける。

 

トルコ出身でありながらドイツで弁護士となった珍しい経歴を持つ主人公。
初めての国選弁護人としてこの事件を引き受けた数時間後、
被害者が自分にとって大恩人である事を知る。

何を聞いても黙秘を続ける犯人、しかし調査を続けると犯人と被害者には恐ろしい過去が・・・

 

復讐に足る理由を理解した時、あなたならこの犯人の量刑をどうするだろうか?


大体こんな感じだろうか。

 

 


一定して主人公の苦悩が続く本作。

被害者は自分を弁護士になるまでサポートしてくれた大恩人。
おまけに被害者の息子(故人)は親友であり、被害者の娘は元カノ(既婚者)だ。
知らなかったとは言え事件を引き受けた事で元カノからは叱責され、
犯人は一言も喋らない。

どん詰まりの中で些細な情報を頼りにイタリアまで遠征。

 

犯人の動機は、第二次世界大戦ナチスの通訳を務めた罪で死刑になった男の息子、という意外な人物から明らかになる。

 


犯人が幼少期、その街はナチスが占拠していた。

被害者はナチスの将校だった。
ある日、反発している勢力に対しての見せしめという形で、犯人の父親は被害者の命令により目の前で処刑されてしまう。それも犯人を抱きかかえ殺される瞬間から目を離せないようにして…。

 

 

戦後、多くの戦争犯罪は明るみに出る事なく数十年の時が経つ。

戦争犯罪という特殊な条件下、特殊な心境で有った行為に対し、
戦後のドイツは20年で時効という法律を制定。


被害者はこの法律のおかげで罪を免れており、
それを知らなかった犯人は時効3か月後に被害者を起訴、時効成立により取り下げされていた。

 

 

納得のいかない犯人だが姉との約束で姉の存命中は静かに暮らす。

その姉が他界したため復讐を遂げた、というのが事の顛末だった。

 

 


黙秘を続けてきた犯人の口から涙ながらに語られた真実に裁判所内は言葉にならない空気になる。

 

 

 


一方で検事側。

被害者の過去を知り、被害者の会社顧問を務め裕福な暮らしをしていた教授。

検事側として出席しているその人は先の時効法律を制定する際に一役買っていた。

(おそらくはその功績で顧問になったのだろう。)

 


検察側として、また被害者の会社の顧問として裁判期間中に何度か隠ぺいを図るが結局主人公に公表されてしまう。

一度はそういう酷い時代だったんだで逃げようとしたが、
最終的にこの法律は正義と言えるかと問い詰められた際、「いいえ」と答える。

静まり返る場内。

 


ここで閉廷。

犯人は主人公にお礼を告げ、獄中でほのかに笑顔を見せる。


現代では多くの国で私的復讐は犯罪とされている。
動機がどのような物であったとしても罪は罪だが量刑はどうなるのか、という所で犯人が獄中自決。
公判は中止となりエンディングとなる。

 

 

 

 

何というか、ボリュームの凄い映画だった。


主人公への感情移入から犯人への感情移入へ誘導され、最終的に自分が殺害される事も理由も理解出来た被害者の心境を思うと心がいっぱいだ。


許されない非道行為をしながらも時効により罪を逃れ善人として生き、主人公もまた恩人と慕う被害者。
通訳をした、というだけで死刑となった犯人と同郷の男の父。

 


どんな罪であれ、1度は正式な裁きを受けるべきだ。

時効の意味を考えさせられる。
この映画のテーマは戦争犯罪者を恣意的に罪逃れさせるために制定されたドレーアー法への批判が強く込められており、
エンドロールで「この法律で無数の犯罪者が罪を逃れた」と直接的に書いている。

 


現在のドイツではナチス犯罪に時効は無いというのが基本精神のようだ。
だが時効成立してしまったまま生涯を終えた犯罪者がたくさん居るのだろう。
作中ではユダヤ人絶滅を謳う人物もこの法で助かったというセリフも有る。

 


歴史に詳しくないので何とも言えないが、この映画を見終えてもどかしさを感じた人は少なくないだろう。
罪逃れしてしまった人を裁く法は無い。
それも犯人は政治家でも法律家でもない一般人だ。
出来る事は私刑だけだった。


復讐に足る理由を理解した時、あなたならこの犯人の量刑をどうするだろうか?


犯人が自殺してしまう形で終わるのでそういう問いかけも有るように思えた。
終始重く決して後味が良い訳ではないが見終えて気が滅入る映画ではなかった。

 

 

余談。

この映画を見て昔見た「愛を読むひと」と言う映画を思い出した。

こちらは第二次大戦中の登場人物が戦後、文字を学ぶ事によって自分の戦争犯罪を自覚すると言う内容だ。

とても切なく辛気くさい映画なので興味があれば是非。

 

 

それと全く関係ないがスカイリムというゲームで、無限の寿命を持つドラゴンが人間の虐殺という大罪を犯した後に改心し人間対ドラゴンの戦争で人間側に立ち勝利、その後の数千年間は人間を守り導いていた。

しかしこの数千年前の罪を咎めてそのドラゴンを殺そうとする勢力が有り、主人公に殺すか赦すか選択を迫るというシーンが有った。

その時も色々と考えさせられた。

 

 

 


映画を見て改めて筆者が思うのはロシアによるウクライナ侵攻が1日も早く終わりこれ以上被害者を出さない事だ。
戦争はダメだ。
それだけは絶対だ。

 

おしまい。