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※ネタバレ有り「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」

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前回コリーニ事件を書いたので今回はこちら。

※重大なネタバレが書いてあるので見てない方は読まないでください。
 回顧用です。

 

 


本作はコリーニ事件より更に辛気臭い映画だ。
まず主人公が倒産ギリギリの80~90くらいの老人店主であり病気を患っている。
筆者が10代、いや20代でも興味を示さなかっただろう雰囲気がそこに出ている。


「ラスト・ディール 美術商と名前を失くした肖像」


舞台はフィンランド
曇りの日が多い北欧らしく、どんよりした天気でどんよりした展開が続く。
(かつて「水曜どうでしょう」で大泉洋さんも北欧の天気に精神が崩壊しかかっていた。)


<あらすじ>


主人公の商才乏しく厳しい経営状態で続けたきた絵画店も、自身の老齢と体調の悪化に伴い限界を感じていた。
「最後に何か大きな仕事を。名画と出会い商談をまとめたい。」
そう思って歯を食いしばるものの中々予算内で買える名画はオークションには出回らない。
そんな折、出品予定の中に気になる絵を発見する。


シンプルな、男の肖像画
主人公の見たところ僧侶か何かだと推察するが、同じく画商の友人は作者のサインが無い事から大した絵ではないと予想する。

 

どうしても頭から離れず調査をするため、

初めは断っていた孫の職業訓練カリキュラムをOKし、店番や一緒に調査をさせる。
すると近代美術の巨匠レーピンの作品である可能性が出てきた。

 

本物だとすると10万ユーロ(約1400万円)以上の値打ちだが証拠となる写真入りの資料が無い。
確証が得られないままオークションは開始されるが…

 

 

 

こんなところだろうか。
これが例えば画商を始めたばかりの孫なら恋愛シーンなども盛り込んで華やかな作品になると思うが本作は「うだつ」の上がらない、これからも上がる要素のない爺さんだ。


登場人物は軒並み辛気臭い。


主人公…老人画商。男。病名は不明だが薬を常用している。経営状態はかなり厳しい。娘から好かれていない。

 

孫…行儀が悪く補導歴が有る。疎遠だったが学校の職業体験カリキュラムの一環で主人公の店に来る。

 

娘…離婚して1人で育児中。家族を大切にしない父と距離を置きつつも孤独で病気の現状を心配はしている。

 

画商の友…主人公の友人。主人公の体やお店の事をいつも気にかけている。

 

同業の男…新しいテナントを探している。主人公の店は立地の割に店賃が安いので狙っている。

 

オークション社長…美術品を画商に売る競市を営む。一度契約不履行した主人公の事を快く思っていない。

 

徹底してどんよりした天気、照明、話の展開が続くが
それ故に孫の奔放さや、娘との関係改善などが一筋の光となって淡く優しい雰囲気にさせる。

 

 

 

最初は疎ましく思っていた孫が主人公の留守中に商談をまとめて(しかも利益を上乗せした)たり、
絵の調査を続ける内に2人の関係は良好に。
絵に何故サインが無いかを孫のタブレット端末で美術館に問い合わせする。


予想外にオークションは盛り上がり1万ユーロ(140万円)まで値が吊り上がるも何とか絵の購入権を獲得。
友人に呆れられるも孫の活躍でオークション直前に確証となる写真を手に入れていた。
作品名は「キリスト」。

主人公の目は正しかった。

 

何とか方々から金をかき集め、最終的には孫をはぐらかして貯金を引き出させて購入。


元々レーピンの絵を欲しがっている資産家を呼びつけ商談をまとめ、孫に報告し2人は大いに喜ぶが
本物のレーピンの絵である事を知ったオークション会社の社長の妨害により破談になってしまう。


破談になった風評は業界内を駆け巡る。

もうこの絵を売る事は難しいと判断した主人公は閉店を決意。
孫の貯金の事が娘にバレて絶交され、孫とも疎遠に。

絵の購入資金のほとんどが借金であるため、テナントを欲しがっていた同業の男に店の権利を売る事で返済する。
レーピンの絵は残ったが落胆し疲れ切った主人公の元に1通の電話と手紙が届く。

手紙は孫からで、職業訓練の評価シートには受け入れた店へのお礼と学生側評価の欄が有った。
5段階評価なのに孫は「6!!」と手で書き加えれていた。思わず顔がしわくちゃになる主人公。

そして電話はサインの事で問い合わせをしていた美術館からで、
「あくまで予想だがレーピン自身はこの作品を売買ではなく聖画として描いたのだと思われる。自身の評価より他者や神への気持ちを捧げるものであったのではないか。」という内容でやはり胸を打たれる。

 

晴れやかな気持ちで引退後の生活を始めるも病気のせいか主人公は間もなく他界。
事情を知らない娘は遺品整理でオークション会社の社長を呼ぶ。

レーピンの作品で有る事を伏せられキリストの絵を指し「この絵だけは特別に返品すれば購入額を全額返金する。」と言う提案をされる。

しかし絵の真実を知る孫と遅れてきた主人公の友人の猛反対で阻止される。
社長は絵の裏に手紙が添えて有る事に気が付き娘に渡す。

主人公の声で手紙が読み上げられる形でエンディング。

 


感想

終わってみれば非常にハートフルな作品。
95分中65分は劇的な展開が無く、多少のバウンドは有る物の若い人には退屈と言われても仕方のない作品。
それでもAmazonプライムの評価はとても高く、筆者も非常に楽しめた。

日本より平均年収が高く、高額な消費税の代わりに福祉が充実とやたら日本の評価が高いフィンランドが舞台だが、
実際庶民の生活は別に日本と差して変わらない印象を受けた。

主人公も娘もお金に全く余裕がなく、主人公の周りも裕福な人は居ない。
唯一レーピンの絵を求めていた顧客は逆に金持ちで、貧富の格差が北欧にも存在する事をありありと感じさせる。


そういった事情もあり天気こそ悪いが、余りなじみの無い国の普通の街並みを見ているのも楽しい。
主人公の店や家は古典的な作りになっているし、途中出てくる喫茶店や図書館も日本人好みな「おしゃれな北欧」が現れていて良かった。


ストーリーは展開が少ないからこそ多少の波が大きく感じ、
どんよりした雰囲気だからこそ孫や娘との関係改善にほっこりする。

また、笑わないし病気でしんどそうだし経営が苦しい主人公だが、気分が良い時は口笛を吹く。
この口笛が筆者はとても印象的だった。

なにせ口笛を吹いたシーンのまま他界したシーンへ移行するからだ。
悲しみを感じさせない制作側の非常に上手いやり方に感動した。

 

 
 

「まあまあ、レーピンの絵なんでしょう。おそらく」

という予想を裏切らない形で特に驚きはなく話は進む。
あと30分しかないけどここから劇的な展開になるのか?という余計な一抹の不安も感じた。

 

しかし一世一代の大勝負、勝っては無いが負けても居ない、大事な物を家族に残せた主人公の最期は口笛と共に良い人生の終わり方だった。
終わり良ければ総て良しという形で、存命中に娘との和解は出来なかったが手紙を読んだ後の感情は推して知しるべしという方で多くは語られず終わるのも潔くて良い。

 


大人向けのしっとりとした、長い小雨から雨上がりの日差しのような良い映画だった。

おしまい。