※タイトルの通りネタバレを含んでいます。ご注意ください。
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あくまで個人の感想ですので「何も分からない素人が好き勝手言っている」くらいの温かい目線でお願いいたします。
色々と書きますので興味の有る所だけ読んでスキップしてください。
【あらすじ】
侍に恨みを持つ農民は多い。
士農工商なんて言うが実際の農民は搾り取られての貧乏暮らし。
侍が道を歩いていれば頭を下げて道を譲り、反抗的な態度を取ろうものならきらりと光る刀で「手打ちに致すぞ」の殺し文句。恨みを抱かぬ方が珍しい。
丑五郎(うしごろう)もその一人だ。
ペリー来航により幕府の権威は失墜、幕府を武力で排除しようと躍起になっていた薩摩は、大政奉還が成った事で倒幕という振り上げた拳を使えず悶々としていた。
何とか戦の大義名分を得ようと様々な策を練る。
その一つに「御用盗」と呼ばれた非正規部隊が有った。
倒幕の意思を持つ志士たちを束ねた浪士集団。※
幕府を挑発するため、江戸町内で殺人強盗と暴虐の限りを尽くす御用盗。
幕末の江戸は荒れていた。
幕府は表立って鎮圧に乗り出せず、困っている所に勝海舟は一計を案じる。
誰も正体を知らない農民出身の非正規部隊をこちらも作り、御用盗とぶつからせようという案だ。
かくして丑五郎を始め江戸近隣の農村にいる若い男が特に説明もなく体力試験と称して集められたが・・・
※御用盗は「幕府の息のかかった豪商を襲い幕府から反撃を誘う」という名目で結成された。だけど食い扶持目当てだったり博打打ちなどヤクザに成り下がった者たちも集められたので、本来の目的を忘れ無関係な町人を襲う事も多々有ったのだとか。
【見るきっかけ】
元々LINEマンガと言うアプリで原作を読んでいた。
ただでさえ作品のテーマである野良仕事で常時汚れている農民出身の登場人物は区別がつきにくい。
そこに加えて格好も背丈も似たり寄ったりだから、序盤~中盤は誰が誰やらな状態だったが、テンポが良くあの激動の時代の農民にスポットを当てた本作はとても面白かった。
そこにきて、毎週ラジオを聴いている神田伯山さんが講談師&ナレーションとして本作のドラマに加わるという話をしていた。
これは見るっきゃない。
しかも脚本は宮藤官九郎さん。
原作が面白くて官九郎&伯山がやるんだから、見る前から面白い事は分かっている状態だった。
【感想①全体】
ちょっと気になる点は有ったものの、大変良かった。
講談師(神田伯山)を使うやり方で話をテンポよく進ませる。
これが上手い。
通過しないと説明がつかないけど、丁寧に見せなくても良いような所は講談師がポンポン進めてくれるから小気味よく進む。
原作と変えたところも良い。
というのも原作は原作でもちろん素晴らしいのですが、原作はリアル志向で余りにも仲間がポンポン死ぬし狂人になってしまうシーンも有る。
血だけでなく汗、泥、糞、内臓など現実的なチャンバラなので全年齢のテレビ向きでは無い。
そういった所を削り、笑いあり涙ありでコンパクトにまとめた宮藤官九郎さんはさすがの一言。
序盤はかなりコミカルなシーンなので「へ~面白そうじゃん」という所で引き込まれ、
「農民出身の侍がのし上がっていくサクセスストーリー」を匂わせるが、話が進むにつれて人殺しになってしまう事への苦悩や立身出世や世直しよりただただ自らの恨みを晴らすというダークな部分になっていく。気が付いた頃には暗いけど先が気になるから抜け出せない危険な作品だ。(そもそも人間を斬り殺すという行為が尋常じゃないわけで。)
原作のストーリーがかなり凹む内容だけど講談師が語っている所を映像化したという手法なので、「本当に泣けなくて良い」くらいの押し付け過ぎないライトな時代劇に仕上がっていた。
所々で笑いとシリアスを散りばめ話にメリハリを付けてくれるし、どっちつかずという作品という感じはなく最後まで飽きずに楽しめた。
【感想②役者さん】
芸人を多数使っているがそもそもがライトな作りになっているのでそれも気にならなかった。
特に良かったのはシソンヌのじろうさん。
めちゃくちゃ嫌な奴に仕上がっていた。
主役の染谷くん、ヒロインの伊藤沙莉さん、
この4人は(変な言い方だが)ちゃんと熱演していた。
ここがブレるとコントドラマになってしまうので、ちゃんと実力の有る役者さんが務めていたので締まる所が締まった感じ。
この人いまいちだな~という人は1人も居なかった。
とても良かったです。
【まとめ】
結局この作品を宮藤官九郎さんは「痛快」に仕上げたかったんだと思う。見ていてそう感じた。
それはちゃんと伝わったので全体として楽しかったと思いました。
原作と変更した展開も、筆者が原作に対して「こうだったら良かったな」と思っていた形に収まっていた。
引き換えに迫力と哀愁を失っているのだけど、目的である「痛快」を取った時点でそれは仕方の無いことだと納得の良く作品でした。
やはり時代劇には痛快が似合う。天晴れ!
おまけ【残念なところ】
箇条書きにします。
1,意味の分からない洋楽
まず時代劇に歌詞付きの洋楽は合わないと思う。上手なエッセンスで奇跡的に合う事は有るかもしれないけど農民が理不尽な仕打ちに対して怒りに燃えるシーンで洋楽を流されても「ん?洋楽?」とそっちが気になってしまう。染谷くんの熱演が可哀そうだった。別に三味線や琴にしろという訳じゃないが歌詞付きの曲にしなくても良いんじゃないかなぁ。
怒りに震える農民が英語で感情を呼び起こされても「うーん・・・?」となってしまった。
2,汚れの無い衣装
これいつも海外と対比でバカにされるネタとして有るけど農民なのに埃一つないささくれ一つない衣装って何かリアリティがなくて違和感を感じてしまう。
せっかくぼろきれを縫い合わせた衣装にしても、生地自体に使い込まれた形跡が無いので新しく作ったお洒落パッチワーク感が出ちゃってる。
そもそもとして俳優はイケメンが多いのだから衣装はちゃんと汚してボロボロにしないと「何とかこの生活から抜け出したいんだ」感が伝わって来ない。残念。
3,心情を言葉に現しすぎ
こちらに心情・感情を予想させる「余白」みたいなものが無いように感じた。
思っている事を全部セリフにしているような印象だったので、もう少し「多くを語らない」みたいな表情や仕草で演じる部分が有っても良かったのではなと思った。
4,原作との違いで残念だったところ
原作と変えて良かった所はたくさん有ったのですが、残念だったところも有りました。
①島田と伊牟田の狂気・凄みが無かった。
原作では島田も伊牟田も人を斬り過ぎてどこか心を壊している。
ドラマでも「その内何も感じなくなる」と言う島田に対し丑五郎が「そうなっちまったらおしめーだ」というセリフを吐きますが、島田や伊牟田から発せられる狂気からの恐怖を感じられなかった。ライトな仕上りには不要なポイントだと思うけど原作で好きなポイントだったので少し残念でした。
原作の島田は近寄りがたい感が強かったのに対してドラマはかなりフレンドリーでしたね。
②丑五郎の機転
農民たちはそれぞれ個性が有り、特に丑五郎はとっさの機転で命からがら助かるシーンが多々あるのだけどそれをあまり感じませんでした。丑五郎の「能力」と言っても過言ではない大きな魅力の1つなのでこちらも少し残念でした。
ただ結局のところ多くの人は原作を知らずに見ているのでこれは「言うだけ野暮」「原作知ってる側からのうるさいクレーム」程度に当たると思います。
余談
時代劇漫画、時代劇小説は他にも名作が多くある。
最近だと「へうげもの」という茶人として名高い古田織部を主人公とした作品が有る。
茶器や茶道と言った数寄者の視点で戦国の世を渡っていく漫画がめちゃくちゃ面白い。
こちらを大河ドラマで宮藤官九郎&神田伯山コンビにやってもらいたいなぁ。
いつか実現されますように。
おしまい。